木造住宅の室内階段

■都内、ある木造2階建住宅の室内階段設計。
■最初に建築家から相談を受けたときには、姿図(側面図)に段板の断面が描かれているだけだった。そう宙に浮いた様に。こんなイメージにしたいという事であった。かなりシンプルである、というかこれ以上シンプルな階段は実現しない究極の階段であった。非常に漠然とした要望であったがそれだけにやる気が沸いた。
■まず、階段の位置を平面図で確認する。一端は壁に接してるのでこの壁は使えそうである。但し、木造の軸組から片持ちで支持させるのは少々難がある。他端の支持方法を思案する。
 図面に段板以外に必要な建築的要素を描き加える(手すり・手摺子)。手摺を構造要素として梁にすればいけそうである。この手摺からワイヤーで段板を吊れば成立する。
■鉛直荷重はこの方法で良いとして、水平方向の揺れ止めが問題である。単純に吊っただけではただのブランコである。水平方向が固定されてはじめて階段としての機能を持つことになる。この解決には段板の面が有効であった。壁側に段板を固定できれば壁側で反力が処理できるので壁からの片持ち形式とすれば問題なさそうである。
■これで構造の骨子は決まった。後はメンバーとディテールを決定すれば良いだけである。
■梁材(手摺)はスパン4mもあるのでそれなりの部材断面が必要であった。鉛直方向の断面剛性が必要なのでH鋼や溝形鋼が適していた。つかまる為には丸いほうが良いのだが、鋼管では径が大きすぎたので溝形鋼を採用した。
 吊り材のワイヤーであるが、ワイヤーの性質上ある程度のプレロード(初期張力)が必要である。通常は自重や別の反力が取れる場所に緊結しなければならないのだが、自重もほとんどゼロに近いし、反力を処理できる場所も無い。再考の結果ピアノ線を使うことにした。強度的にはかなり細いものでも良かったのだが触ったときに曲がりやすい・曲がると元に戻らない等の理由からφ6とした。
 段板は2本の丸鋼に載せ、丸鋼を貫通したビスで固定した。丸鋼とピアノ線の接合は、いろいろ悩んだが丸鋼にピアノ線を貫通させていもねじで固定するディテールを思いついた。この結果かなりシンプルなディテールが完成した。段板を受ける2本の丸鋼はこのディテールの為やや太いがφ19となっている。

■この案を建築家に提案したところ、気に入ってもらえ採用されたのでこうして実現に至った。写真にある防護ネットは建築家が意図したものではなく、住まい手が後から付けた物である。
 一見すると華奢で不安定に見えるが、意外とがっちりしているそうなのでホッと一安心しているのであった。

この階段の特徴は、階段としての機能を満たすエレメントのみで成り立っていることである。それ以外に構造的に設けたものは何も無く機能上必要なエレメントを工夫して構造材として利用しているに過ぎない。段板・手摺・手摺子の全てを構造で使っているのである。

  

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